マネー大国は、「生命保険大国」でもある。
生命保険大国を代表するN生命は、やはりいくつかの世界タイトルを保持している。
だが、その女子職員は、なぜか「ぜひ、私たちの『女工哀史」を書いてくださいよ」と訴えた。
この国がなぜ生命保険大国なのか不思議だが、N生命も「よくわからない会社」だった。
まず「有価証券報告書」を入手して、決算や資産などの内容を知ろうとした出発点で、自分の無知を知らされた。
同社は、正確にはN生命保険相互会社であり、株式会社ではなかった。
同社の「経営基本理念」には、〈共存共栄、相互扶助の精神に基づく生命保険事業〉であることを、高らかにうたっている。
同社のように〈相互扶助の精神〉を体現しているらしい相互会社には、上場されている株式会社のような義務さえ免除されていた。
証券取引法第二四条の規定による、「有価証券報告書」の大蔵省への提出義務もなかった。
日本国内の生命保険会社(内国会社)二三社のうち大手を中心にした一六社が、保険業法にもとづく相互会社で、七社だけが株式会社だった。
相互会社とはなにかを調べてみたが、形式上は、まるで社会主義の会社みたいな、立派な決まりになっていた。
たとえば、株式会社のように株主はいないが、保険契約者が「社員」と呼ばれ、その社員が株主みたいな資格を持つ。
社員みんなで〈相互扶助の精神〉を発揮するためにつくった会社が、相互会社という趣旨になっている。
世界・一の〈生命保険普及国〉では、ほとんどの国民が生命保険会社の社員であり、国民が所有する国民の会社ということになる。
N生命についていえば、保有保険契約件数は八七年三月末現在で五六三二万件になっており、日本の国民の過半数を占める数字である。
だが、生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査」(八五年七月実施)によると、一世帯当たりの加入件数は民間生命保険で二・七件(全生命保険四・一件)となっている。
同じN生命の保険に一人平均一件の加入とすると、二三○○万人以上の社員がいることにな株式会社では株主総会が最高決議機関となっているのと同様に、相互会社では社員総代会が最高意思決定機関である。
だが、N生命でいえば、二三○○万人以上が一堂に会するのは不可能であり、社員代表の社員総代を選出して開かれるのが社員総代会である。
だが、実際は、責任ある同社の役付職員たちも、「入社以来、だれかが社員総代に立候補したという話は聞いたことがない」という。
N生命の一二○人の社員総代は、七○%にあたる八四人までが会社役員で占められている。
一般のサラリーマン代表は限りなくゼロに近い。
ある幹部職員は、「一人か二人の主婦がいても、だれかエライさんのかみさんですよ」という。
会社役員とその縁故者が、社員総代のほとんどを占めている。
が、実態は株一会社」である。
よくわからないのは、「保険」の名がついている最近の金融商品も同様で、保険といえるかどうかわからなくなっている。
その結果、「保険」という金融商品によってマネーと資産が増殖していくマネー・マジックが、よくわからないようになっている。
いや、マネー・マジックが威力を発揮するのは、仕掛けがわからないことを前提としている。
当のN生命自身も、自社が「よくわからない会社」であることに戸惑っているほどで、「よくわからない会社」から「見える会社」に変身しようと模索している。
この一文の責任も、「よくわからない会社」の実態を具体的に明らかにして、だれにも「見える会社」にすることだが、まずはN生命自身の模索。
この実態は監督官庁の大蔵省も承知しており、立派な通達「相互会社運営の改善について」(八三年三月三一日一部改正)を出し、〈社員総代を広く社員全体からより適切に選ぶ仕組〉をつくり、また〈社員総代に選出されない一般社員に対して意見を表明する機会を与え〉るようにと改善を求めている。
さらに、事務連絡「相互会社運営上の注意について」(六九年五月二一日)では、各社の定款も〈運営が形式に流れ〉、社員総代会自体が〈委任状による出席によって定数を満たしている現状〉などについて述べ、〈相互組織そのものの批判と不信を招く〉と改善を求めている。
しかも、〈会社役員である社員総代〉については、〈役員が総代になることは適当でなく、総代会に対する不信にもつながるので、役員の総代選出は辞退することが望ましい〉と、たいそう厳しく述べている。
このように相互会社には立派な法律やお達しがそろっているが、みごとに有名無実になっている。
生命保険に関する著書を何冊か読んだが、めんどうな相互会社の説明を避けるためもあって、何人かの著者実態は株式会社と同じであると書いていた。
N生命保険相互会社とは、ともかく「よくわからないます〉N生命では、保険契約者である社員と区別して、従業員を職員と呼んでいる。
同社のD出版物『N生命1987/現状」によると、職員にもいろいろあって、大別すると、普通の会社の正社員に当たる内務職員らの正職員が一万三七三九人、「日生のおばちゃん」の外務職員などが七万六七五七人、合わせて九万人を超える大所帯である(八七年一月末現在)。
「見える会社」への変身は、九万人を超える職員の〈新しい行動〉にかかっているというわけである。
このスローガンを掲げた「NCIニュース」は、同社のCI推進特別委員会が発行しているもの。
CIとは、コーポレート・アイデンティティの頭文字をとったもので、要するに企業のイメージ・チェンジN生命は、八七年一○月一日から、「日生のおばちゃん」に代えて、すてきなYが出演するコマーシャルを放映している。
読者の目にもとまっていることだろう。
あれもCI戦略の一つであり、広報室が作成した「ニュース・レリース」(八七年九月一八日付)は、つぎのように書いている。
〈当社は、昭和六四〔一九八九〕年七月に創業一○○周年を迎えますが、「年齢、性別に関係なく、知名度・人気率とも圧倒的な支持を得るわが国有数の女優」であるYの起用は、当社が第二世紀と変身の戦略である。
N生命の社内文書「NCIニュース」には、こんなスローガンが掲げられている。
〈「よくわからない会社」から「見える会社」へ。
新しいNは私たちの新しい行動から生まれYも起用し「見える会社」へ〉向けて、万一の保障だけを提供する「生命保険会社」から、健康で明かるく、豊かな生活を提案する「総合生活保障サービス産業」への企業イメージの転換を狙っております〉〈Yの起用により「国際性」「将来性」「躍動性」「親近感」など、創業第二世紀へ向けた新しい企業イメージづくりを目指しています〉実にもりだくさんの目標を掲げている。
抽象的な言葉と形容詞をやたら並べ、肝心の〈総合生活保障サービス産業〉というのが、具体的にはなんのことかよくわからない。
なおさら「よくわからない会社」になっていくような危倶さえ抱かせる。
N生命は、創業一○○周年を期して、〈総合生活保障サービス産業〉を目指すさまざまな戦略を実行中である。
八八年七月に発足するN基礎研究所もその一つだが、人材募集広告(「N新聞』一月一四日付など)を見ると、基礎研究所が〈総合金融機関の核として機能していく〉ものであると、書いてあった。
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